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錐(キリ)

 錐 <工具の一つ。先がとがっていて、材面などに穴をあけるのに使う。ドリル>広辞林
   
 広い意味での錐の仲間には、両手を使って錐柄(きりつか)を回転させ材に穴を開ける。
揉錐(もみぎり)から始まって、千枚通しなどの片手錐、その名の通りの形をしているネジ錐、サジ錐等々と、実に多様なものがあります。
電動ドリルまでをそのなかに含めてもよいかもしれません。
最初に取り上けるのは、錐の中でも日本在来のものと言われている揉錐です。

 そのうちから代表的な四種類、三ツ日錐、四方錐(よほうぎり=通称四ツ目とも言う)、壷錐、鼠歯錐です。
 
三ッ目錐は、その名の通り刃先の断面が正三角形です。
軸が丸く細くくびれた上に、丸みをもった三角錐がのっているという形です。

 この三角錐のかどが刃となり、それに回転を与えることによって、材に穴を開けます。
上から、三つ目錐、四つ目錐、壷錐、鼠歯錐
 
 三角錐の下になる軸がくびれているのは、力を上手に伝えるための工夫で、材に揉み込む時の抵玩を少なくすることにも役立っています。
 
 三ッ目錐は丸釘つまり一般的な釘ですが、この釘を打つ前に、釘の通り道として開ける穴に使用するものです。
右図のように刃先が材に入りますと、穴の断面はちょうど丸釘の断面と同じものとなります。

 三ッ目維の大きさは、刃の部分の巾によって示されます。
小さいほうは、ケシの実に近い様子からケシ三ツ目と呼ばれるものです。
上は1分5厘ほどまであります。
おおよそ8種類に分かれ、小さい方よりケシ三ツ目、小三ッ目、中三ツ目、大三ツ目、小通し、中通し、相通し、大通しとなります。
 
 四方錐には三ツ日のようなくぴれはありません。
正方形の断面を持った、四角錐の形をしています。
この錐は、木釘を打つ時に使うものです。
四方錐であく穴の形状は、木釘を横から見た形と同じです。

 四方錐は、その刃の長さが1寸5分から5分ずつの違いで、6寸程度まであります。
どの大きさのものをとってみても、先端の形は同じです。
つまり刃先を一つの四角錐と考えると、その頂点からどれだけの長さを刃の部分として使用するかが、四方錐の大きさということになります。
また、先に四方錐の断面は正方形だと言いましたが、これをいくらか長方形気味につくると、調子がよろしいようです。
長辺方向で穴を開け、短辺方向でクズをかい出すといった具合でしょうか。
四方維は木錐のための錐ですから、木錐をよく使う、家具、指物師、建具屋などがよく使うものです。

 右図のように三ツ目、四方の二つの錐の柄は、その肩が落としてあります。
それは、その使われ方に理由があります。
錐は釘の通り道をつけるものです。
しかし、やみくもに釘を打ったところで、ききもしなけれは、かえって材に割れをおこしてしまい、都合が悪い場合すらあります。
柾目のような素性のよい木はとても割れやすく、割れてしまえば釘のききは零。
そして細工としては零以下です。

 釘をどこにどう通せは一番よいのか、これを知っていなけれはなりません。
その場合、穴を開ける位置が、入隅となることがしはしはあります。
この時に錐が深く入っていくと、柄の肩が先ず材に当たってしまいます。
より深く入れることができるようにと、柄の肩は落としてあるのです。
 
 壷錐は、先端に刃がついた点で、三ツ目、四方とは違った方法で穴を開けていく錐です。
刃が回転し、材の繊維を切りながら進んでいく訳です。
ここで刃は開けた穴の周りを切るだけです。
中に残された部分は削られないので、刃に受ける抵抗は大きく、使うには他の錐より大きな力が必要となります。
穴の中に残された部分は、適宜かい出してやらなければなりません。

 壷錐で開けられた穴は実にきれいな円筒状のものとなります。
そのため、建具の穴、かつてのガラス戸についたネジ締りの穴などには、これが使われました。
また、下駄屋が鼻緒の穴を開ける、指物、家具の穴、それぞれに壷錐の活躍するところでした。
大工も、埋木をする、ダボ穴を掘るなどという時に使っていたようです。
壷錐は元来が杉、桧、桐等のやわらかい材に使用するものです。

 壷錐には使い方に少々コツがあります。
先ず材の目を見たならば、その繊維を断ち切るように、開けたい穴の位置の上で刃の方向を定めます。
そして上からボンと柄をたたきます。
刃を材に食い込ませたところで、一周ぐるりと刃の跡をつけ、ついでに先ほどとは反対側の繊錐もポンと切ってやります。
こうした準備をした上で揉みみ始めますと、壷錐はあばれることなく材に入っていきます。

 壷錐がやわらかな材向きであったのに対して、鼠歯は主に竹に穴を開けるのに使われます。
三叉となった中央の高い部分を、穴を開けようとする位置の中心へもってきます。
これを中心に回転をさせますと、両側の二枚の小刀状の刃が材の繊維を断ち切りながら、連続して切り出しを行います。
壷錐とは大きく違ったこうした穴の開け方が、竹のように繊維が丈夫なものに向いています。

 鼠歯の大きさは、刃巾にて1分から2分までです。
1分より小さいものがないので、竹に小さな穴を開ける時は三ツ目が使われます。
壷錐や鼠歯の柄の肩が落とされていない理由は、これらが釘の通り道としての穴を開ける錐ではなく、ただ穴を開けるための錐であるというところにありました。
つまり、壷錐や鼠歯錐では、入隅の細工ということはあまりないことなのです。

 錐の柄で上が細く、下が太いのには意味があります。
錐の使いはじめは、柄の上の部分を揉むのです。
そうすると、同じ手の動かし方をしても、下にくらべまして、より多くの回転を得ることができます。
材に錐を揉み込む始めに大切なことは、その入口を安定させることです。
最初に高回転を与えることに意味があります。
そして穴が深くなれば、より大きな力が必要となってきます。

 その時に手を下へ移動させると、柄が太くなるため、回転は少なくなりますが、より大きな力を得ることができるようになります。
ですから壷錐は、一番大きな力を必要としますので、その柄が太くなっています。
 柄には、桧や桐などの材が使われます。
これらの材の表面のなめらかさが、揉み込む手に適しているからでしょう。
錐を使う時は、手の平の下にカを入れます。
そして、錐柄を小指から手首につながる肉の厚い部分で押えつけるようにしながら、両手をたがいに前後させます。

 ここで問題となるのが、いかに思いの方向に錐を入れるかということです。
多くの場合、材に対しての直角が問題となります。
一たび方向を違えてしまうと、その方向を直すことは大変難しいことになります。
かつては、使う人が注意することはもちろん、傍らに鉛直を見る人を置いて、錐を使っていたという詰もありました。
錐の場合ですと、専用の直角定規などを用意して、それでチョコチョコと計りながら直角を保ちます。
 
 錐は、回転運動がその成り立ちとなっています。
特に揉み錐では、柄と刃の中心軸が通っていることが重要です。
中心軸が通らないと、回転が安定しません。
刃に柄をきちんとすげるのは大変難しいことです。
刃の部分を万力で押えて、柄を少しずつ慎重にすげていきますが、刃に合わせて柄の方を削り直す、といったやり方もあるかもしれません。

 道具箱のなかに、錐が入っていることは少なくなっています。
ドリルで開けた穴と、三ッ日錐で開けた穴は、ほとんど違いがありません。
つらい思いをして錐を一日揉んでいるよりは、電気の力を借り、余った時間とエネルギーは他にまわすのが、賢い方法ということもできます。
それが、錐が消えていった理由でしょう。

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