サーファー プロジェクト      建築用語集
No.00 問い合わせがあった No.01 敷地の状況 No.02 設計依頼と試案提示 No.03 試案の提示−その2
No.04 定例の打合せ No.05 天井と室内仕上げ No.06 仕上げ、地盤 No.07 地盤と基礎
No.08 床下の話 No.09 無垢材か集成材か No.10 建築確認申請 No.11 見積と施工者
No.12 請負契約と銀行 No.13 着工した No.14 プレカット No.15 根切り開始
No.16 コンクリート打設 No.17 基礎とヘルスコート No.18 上棟前の仕事 No.19 上棟した
No.20 屋根と筋違 No.21 中間検査 No.22 現場の年納め No.23 新年を迎えて
No.24 細かいところ−T No.25 細かいところ−U No.26 細かいところ−V No.27 細かいところ−W
No.28 階段と屋根際 No.29 建て主の参加 No.30 ほぼ完成 No.31 最後の仕事
No.32 引渡し No.33 6ヶ月点検
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No.01 敷地の状況

 ゴールデンウィークのある日、サーファーのさん夫妻と、建築予定地で出会った。
ちょっと雨が降っている。
はじめての対面。最初は、いつも緊張する。
東と西には、すでに家が建っている

 若いお2人は、ワーゲンのタイプUに乗ってきた。
小さなマイクロバス型のバンで、うぐいす色と白っぽい色のツートンカラー。
「リトル ミス サンシャイン」に出てきた車だ。
これが適当にくたびれてて、いい感じ。

 のっている車は、その人の生き方をそうとうに表す。
サーファーだといって、カローラで来たらどうしようと思っていたので、一安心。
30年くらい前の車を、丁寧に乗っている姿には好感がいっぱい。
もらったメールのイメージとぴったり。
この建て主なら、ぜひ一緒に仕事をしたい。

 お互いに挨拶をしながら、敷地をみてまわる。
緩い北への傾斜地を、ひな壇状に宅地造成した一番うえである。
周囲はすでに建築が進んでおり、東側の住宅にはもう人が住んでいる。西側は建築中だけれど、もうほぼ完成している。近々、入居が始まりそうだ。

 南側は空き地で、ゆるく登った向こうに道が見える。
近くには公園もあるようだ。
北側は3メートルの擁壁になって、下には5メートル幅の道路が走っている。これが接道になる。
道路から敷地の下へと、トンネル状の駐車場が入っている。


 敷地をみたあと、雨のなかを近くの喫茶店に移動。
あらためてご挨拶。
家についての話が始まる。
家についてお互いに考えていることを、いろいろと話す。

 住宅展示場のような家はイヤだ、とSさん。
家に拘りがあるのがよくわかる。
坪いくらのお仕着せには、納得ができない。
しかし、予算は潤沢にあるとは言えない。
なんとか家を建てたい。

 ほんとうは皆こうだったはずだ。
いつの間にか建て売り住宅が並び、隣と同じような生活が営まれるようになってしまった。
自分の生活は自分のものだ。
住まいだって、自分のカラーで染めたい。
でも、それが難しい世の中になってしまった。

 設計者であるボクも、いつの間にか、没個性的で平均的な家しか造らなくなっていた。
住宅展示場の家だって、建て売りだって、設計者の手が入っている。
いまでは大工さんだけが手がける家は、ほんとうに少なくなった。
しかし、設計者の建てる家も、みな同じなのだ。しかも、坪50万円も、60万円もする。

 話が進むうちに、「ブルータス」−居住空間学2009−を読んでいることが判明。
なんとなく話が合うかんじ。
他の建築関係者からも意見をとったとのこと。
しかし、予算があわなかったり、広さが不充分だったりと、決めかねている様子。
Sさん夫妻と話は合うが、1200万円の予算は厳しいことにちがいない。

 やがてSさんにも子供ができるだろう。
子供は2人欲しいと言っている。
すると、4人が暮らす住まいが必要である。
1人あたり7坪として、28坪くらいの家がほしいところである。

 ボクは昔やったTさんの家〈日傘の家:シリーズ−1〉を思い出していた。
グラフィック・デザイナーだったTさんの家は、夫婦に子供2人、それにお母さんが住んだ5人家族だった。
容積率が厳しくて、必要な床面積がとれなかった。
ロフトをつくったり、吹き抜けをつくったりして、なんとか床面積を確保したおぼえがある。
あのときも、厳しい予算だった。
仕上げを途中で止めたり、完成後に建築主の自力工事があったりと苦労した。
引き渡し後の、自力工事には設計者のボクも参加した。

 間仕切りも少なく、ほんとうに必要最小限の仕様だった。
その後、20年たって、いまでは小さかった子供たちも、みな成人したという。
子供が2人いるから、子供部屋が2つ必要だという発想は、かならずしも正しいものではないだろう。
ボクが設計事務所を始めた頃は、なるべく子供部屋をつくらないようにした。
〈大人のための増改築〉を読んで欲しい。
子供部屋が欲しかった子供たちには、ボクはずいぶんと恨まれた。
でも、子供部屋の独立していない家でも、子供たちは元気に育った。

 まだ子供のいないSさんだが、子供部屋はそのときになって考える。
いまは、広さを確保しておきたいという。
間仕切りのない家なら、この予算でも可能かもしれないと思ったが、この場では確約できなかった。
坪40万であげる自信がなかったので、この場はこれ以上話を進められなかった。


 事務所に戻って、図面を描いてシミュレーションをしてみた。
シミュレーションは、単純な外形の、間仕切りのない、最小限の間取りの計画である。
そして、図面をもとに、馴染みの工務店に概略見積もりを出してもらった。
すると、1200万円に納まりそうな金額が返ってきた。

 Sさんに、なんとか1200万円でできそうだと、メールを出す。
いまのことろ、ボクが第一候補なのだが、躊躇しているのだという。
ボクの仕事のすすめ方は、〈設計の手順〉にも書いたように、着手金を入れてもらわないと図面や建築計画を始めない。
そのため、迷っているのである。

 着手金として10万円を払うのは、一大決心である。
タダで図面を描いてくれるところはたくさんある。
迷って、躊躇するのは当然である。
すると、今までやった住宅を見せて欲しいと言われた。
もちろん仕事をさせてもらった家に案内するけど、坪60万も70万もかかった家を見ても役に立たない。
そこで、コンクリート造3階建ての〈超ローコストのRC住宅〉を、1100万円でやっているから、この家に案内することにした。

 ゴールデン・ウィークから2週間以上たった5月の日曜日、登戸駅まで待ち合わせる。
コンクリート造の家には興味がないと言っていたが、この家を見て衝撃をうけたようだった。
コンクリートやブロックがむき出しでありながら、充分に生活ができる。
住まい方こそ重要なのだと、ボクは訴えた。
建築主のさんも、快適な住み心地だと言ってくれたし、今はアメリカに行っている娘さんが気に入っていると、言ってくれた。
その帰りに、〈H邸の増築〉〈等覚院の庫裏〉に寄って、木造についてちょっとPRさせてもらう。
この日は、これで終わり。

 しばらくして、もう一度会うことになった。

(2009.08.13)

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